何も言わない統計学

身近な事柄を題材とした統計に関する記事を書きます。

南海トラフ地震の発生確率とその図示

1.南海トラフ地震の発生確率

 政府の地震調査研究推進本部事務局のWebページ

「南海トラフで発生する地震」によれば、下記のとおりとなっております。 

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そして、詳細については、

「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」に書かれています。

その中で、下記の表があり、南海トラフ地震の発生確率は、BPT分布を用いて計算されていることが分かります。

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2.BPT分布とは

  BPT分布とは、Brownian Passage Time 分布の略で、逆ガウス分布、ワルド分布とも言われます。確率密度関数 f(t)は、下記のとおり表現される分布です。 

BPT分布の確率密度関数f(t)=\sqrt{ \cfrac{\mu}{2\pi\alpha^2t^3}} \exp\left(\cfrac{-(t-\mu )^2}{2\alpha^2\mu t}\right)
 (記号の意味)
  • \mu:次の地震までの発生間隔(再現期間)
  • \alpha:ばらつき
  • t:前回の地震からの経過時間
 

3.BPT分布の平均、分散

BPT分布の平均E(X)、分散V(X)は下記のとおりです 

BPT分布の平均、分散E(X)=\mu ,V(X)=(\alpha \mu)^2
 
 

  

4.BPT分布、逆ガウス分布、ワルド分布の別表記方法

 BPT分布、逆ガウス分布、ワルド分布はいずれも同じ分布であり、数式では先ほどのように書くこともあれば、txに、\alpha^2\mu/\lambdaにそれぞれ置き換えて、下記のとおり書くこともあります。

BPT分布、逆ガウス分布、ワルド分布の確率密度関数(別表記)f(t)=\sqrt{ \cfrac{\mu}{2\pi\alpha^2t^3}} \exp\left(\cfrac{-(t-\mu )^2}{2\alpha^2\mu t}\right)
 

 

 5.BPT分布の図示

上記より、BPT分布を用いて、南海トラフ地震を確率的に図示すると下図となります(\mu=88.2,\alpha=0.20,0.24,t=0を1946年としてあります)。 

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n回陽性的中率、n回陰性的中率の計算方法

1.n回陽性的中率の計算方法

 前回の記事では感染している事象をXnPCR検査を受けてn回全て陽性の反応を示す事象をY_nとすれば、次のように表すことができました。

n回陽性的中率(前回の復習)P(X\mid Y_n)=\dfrac{P(Y_n\mid X)P(X)}{P(Y_n)}
n回陽性的中率

ここで、感度をSe、特異度をSp、感染者割合をAとすると、

  • P(Y_n\mid X)=Se^n
  • P(X)=A (統計学では、これを事前確率と言います)

 P(Y_n)は、感染者が正しくn回全て陽性となる確率と非感染者がn回全て誤って陽性となる確率の和となるので、

  • P(Y_n)= P(X)P(Yn\mid X)+P(\bar X)P(Yn\mid \bar X)=ASe^n+(1-A)(1-Sp)^n

 したがって、 下記のとおり計算することができます。

具体的なn回陽性的中率の計算方法P(X\mid Y_n)=\dfrac{Se^n A}{ASe^n+(1-A)(1-Sp)^n}
 
 図で表すと下図のようになります。
 

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2.検査方法が複数個ある場合

 上述については、1つの検査方法のみの場合を考えていました。検査方法が検査1,2・・・n個ある場合には、感度SeSe_n(n=1,2・・・n)、特異度SpSp_n(n=1,2・・・n)として拡張すると、検査方法が複数個の場合についても下記のとおり計算することができます。

 

検査方法が複数個ある場合の計算方法P(X\mid Y_n)=\dfrac{A{\displaystyle\prod_{n=1}^{n}}Se_n}{A{\displaystyle\prod_{n=1}^{n}}Se_n+(1-A){\displaystyle\prod_{n=1}^{n}}(1-Sp_n)}
 

 

 
 
3.n回陰性的中率の計算方法
n回陰性的中率もn回陽性的中率と同様の考え方で計算できます。
n回陰性的中率(前回の復習)P(\bar X\mid \bar Y_n)=\dfrac{P(\bar Y_n\mid \bar X)P(\bar X)}{P(\bar Y_n)}
n回陽性的中率
具体的なn回陰性的中率の計算方法P(\bar X\mid \bar Y_n)=\dfrac{Sp^n (1-A)}{A(1-Se)^n+(1-A)Sp^n}
 
 

複数回PCR検査の受ける場合の精度に関する新たな指標の提案

1.ベイズの定理

 まず、ベイズの定理の確認から。 

ベイズの定理P(X\mid Y)=\dfrac{P(Y\mid X)P(X)}{P(Y)}
 (記号の意味)
  • P(X):事象Xが起こる確率
  • P(Y):事象Yが起こる確率
  • P(X\mid Y ):事象Yが起こる条件のもとで事象Xが起こる確率
  • P(Y\mid X ):事象Xが起こる条件のもとで事象Yが起こる確率
 
(導出方法)
ベイズの定理は下記の2式(条件付き確率)から導かれます。

{\displaystyle \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} P(X\mid Y)=\dfrac{P(Y\cap X)}{P(Y)} \\ P(Y\mid X)=\dfrac{P(X\cap Y)}{P(X)} \end{array} \right. \end{eqnarray} }

 

2.従来のPCR検査の精度

ウイルスに感染している事象をXPCR検査で陽性の反応を示す事象をYとすれば、下記のとおり表現することができます。

  • 感度:P(Y\mid X )
  • 特異度:P(\bar Y\mid \bar X )
  • 陽性的中率:P(X\mid Y )
  • 陰性的中率:P(\bar X\mid \bar Y )

ちなみに、\bar X \bar YはそれぞれXYの余事象を表し、\bar X は感染していない事象、\bar Yは陰性の事象のことです。

 

3.n回陽性的中率、n回陰性的中率

 さて、次に複数回PCR検査を受ける際の精度について考えます。

それは、複数回PCR検査を受けて全て同じ結果だった時の的中率を考えれば良いと考えます。

つまり、nPCR検査を受けてn回全て陽性の反応を示す事象をY_nとすれば、n回陽性的中率及びn回陰性的中率は下記のとおり定義できます。

n回陽性的中率P(X\mid Y_n)=\dfrac{P(Y_n\mid X)P(X)}{P(Y_n)}
 
n回陰性的中率P(\bar X\mid \bar Y_n)=\dfrac{P(\bar Y_n\mid \bar X)P(\bar X)}{P(\bar Y_n)}
 
\bar Y_nn回全て陰性の反応を示す事象です。
 
次回は、n回陽性的中率とn回陰性的中率の具体的な計算方法についての記事を書きます。